むし歯になるとエナメル質が溶ける?大切な歯のエナメル質を再生するためには

この記事の監修者

中島 美砂子

中島 美砂子/歯科医師・研究者(歯学博士)

医療法人健康みらい RD歯科クリニック理事長。九州大学大学院歯学研究科を修了後、同大学院並びに米国研究機関にて歯内治療の研究を推進。
その後、「細胞移植による歯髄再生治療」の臨床研究を行い、実用化。

代表著書
・Nakashima M, et al.: Pulp regeneration by transplantation of dental pulp stem cells in pulpitis: A pilot clinical study.Stem Cell Res Therapy 2017.世界初の歯髄再生治療の臨床研究

・中島美砂子、庵原耕一郎:―患者まで届いている再生医療―「歯髄・象牙質再生治療の現状」 日本再生医療学会雑誌 2019. 

むし歯になると、歯が溶けて穴が開いてしまいます。

 

むし歯になってから通院するのではなく、定期的に健診やクリーニングを受けてお口の環境を整えると短い通院期間で済み、なおかつ費用も抑えることが可能です。
実際、大切な歯を長持ちさせるために、「予防歯科」を取り入れて、お口の健康を維持する方が増えてきています。

 

そこで今回は、歯の健康を守るために重要なエナメル質を再生するためにできることについて詳しくご紹介します。

 

エナメル質とは

歯の構造は大きく分けると、外側から「エナメル質」「象牙質」「歯髄」の3つで成り立っています。

 

エナメル質は非常に硬く、内側の象牙質や歯髄を保護する役割があり、健康なエナメル質は白っぽい色をしています。
硬いエナメル質ですが、酸の刺激には弱く、むし歯菌が作り出す「酸」や食べ物に含まれている酸でも溶けてしまうという特徴があります。

 

ただし、初期の段階のむし歯であれば、唾液の再石灰化の働きで、酸に溶かされた歯は修復されます。そのため、初期のむし歯であればお口の中を清潔に保ち、フッ素などで再石灰化の促進を促すことで、修復して改善する可能性があります。

 

しかし、むし歯が進行して、歯の穴が開いてしまうと修復が難しく、むし歯や感染部分を取り除き、詰め物や被せ物をする治療が必要です。

 

エナメル質が溶けてむし歯になるメカニズム

むし歯の原因は、「細菌」「歯の質」「糖質」の3つの要素が関係してきます。
この3つの要素に時間が加わると、むし歯が発生します。

 

・細菌
むし歯菌ともいわれる「ミュータンス菌」は酸を作る能力が高く、歯垢の中で酸を作り出します。
生まれたばかりの赤ちゃんのお口の中にはミュータンス菌は存在していません。
親と同じスプーンを使うなど、親子間で感染することが多いと考えられているため、食器の共有はしないようにしましょう。むし歯にならないためには、ほかの要素を揃えない様にすることが大切です。

 

・歯の質
歯の質、歯並び、唾液の質など個人差があり、エナメル質や象牙質の状況によってもむし歯のなりやすさが変わります。
また、生活習慣や食習慣も関係してくるため、丈夫な歯を作るには良質なタンパク質や歯の石灰化に必要なカルシウムやリンを摂取することが大切です。
また、これらが上手く働くためにはビタミンA、ビタミンC、ビタミンDなども必要となるため、野菜を中心としたバランスの良い食事を心がけましょう。

 

・糖質
食べ物の中に含まれている糖分は、ミュータンス菌が酸を作り出す材料になります。
頻繁に間食をする方や、糖分の多いジュースを飲む習慣がある方は、歯の表面に酸がさらされる時間が多くなるため、むし歯のリスクが高くなります。

 

また、これらの3つの要素だけでなく、酸にさらされている「時間」がむし歯発生の条件になります。ミュータンス菌の活動を抑制するためには、この酸にさらされている時間を減らすことが大切です。

 

歯の表面が酸に溶かされる

お口の中に継続的に汚れが残っていると、その汚れを栄養にしてむし歯菌が増殖し、酸を作り出します。エナメル質は酸に弱いため、再石灰化が追い付かなくなると歯に穴が開いて、治療が必要なむし歯になってしまいます。

 

初期のむし歯は再石灰化を促すことで修復できる

お口の中では、歯を溶かす「脱灰」と歯を修復する「再石灰化」が繰り返されています。
脱灰とは、ミュータンス菌が作り出した酸で歯を溶かしてしまうことです。
再石灰化は、脱灰によって溶け出した「カルシウム」や「リン酸」が唾液の働きで取り込まれ、歯が修復されることを指します。
再石灰化が追い付かなくなるとむし歯になってしまうため、むし歯予防や初期のむし歯改善には、再石灰化を促進することが大切です。

 

 

エナメル質が失われる原因

強すぎるブラッシング

毎日のセルフケアでお口の中を清潔に保つことは大切ですが、強すぎるブラッシングはエナメル質が徐々に削れる原因になるため、適度な力で歯磨きをするようにしましょう。
また、硬すぎる歯ブラシもエナメル質を傷つけてしまうため、歯ブラシの硬さも適度なものを選ぶことが大切です。

 

歯ぎしり・食いしばり

歯ぎしりや食いしばりがあると、歯に強い力がかかります。
このため歯ぎしりや食いしばりの癖があると、少しずつ歯が削れる原因となってしまいます。

 

口内環境の汚れ

お口の中に汚れがあると、ミュータンス菌が活発に。
ミュータンス菌が活発になると酸が作られ、エナメル質が溶ける原因となります。

 

 

エナメル質の再石灰化を促進する4つの方法

初期のむし歯は、エナメル質の再石灰化を促進することで改善が期待できます。
エナメル質の再石灰化を促進するには主に以下の4つの方法があります。

 

唾液の分泌を促進する

唾液の働きは再石灰化を促進するため、唾液が分泌されるようにひとくち30回を目安にしっかり噛みましょう。
また、するめやごぼうなどの噛みごたえのあるものをよく噛むことで、唾液の分泌が促されるためおすすめです。

 

唾液の分泌を促すためには、水分も大切ですから、こまめな水分補給を心がけて、お口の中が潤うようにしましょう。

 

食後の歯磨きでお口の中を清潔に

お口の中に歯垢(プラーク)が残っていると、ミュータンス菌が活発になり、酸を作り出します。

 

酸がなるべく作られないようにするには、食後30分以内に歯を磨き、お口の中の汚れをきれいに取り除くことが大切です。歯ブラシだけでは、歯と歯の間の汚れが残ってしまうため、デンタルフロスや歯間ブラシを併用して細かい汚れも落としてください。また、毎日しっかり歯磨きをしているつもりでも、磨きにくいところには汚れが残ってしまいがちです。

 

磨き残しがそのままになってしまわないように、定期的に歯科医院に受診してお口のクリーニングをしましょう。
最近では歯周病予防やホワイトニング効果の成分があるものも販売されているため、お悩みに合った歯磨き粉を選ぶと良いでしょう

 

頻繁な間食を控える

間食をするとお口の中が酸性に傾き、唾液の働きで中性になります。
しかし、頻繁に酸性の状態が続くと、再石灰化が追い付かずにむし歯になってしまいます。
間食の時間を決めて、頻繁な間食は避けるようにしましょう。

 

キシリトールガムを噛む

キシリトールはミュータンス菌の働きを抑制して、むし歯の原因になる酸を作りにくくする働きがあります。また、ガムを噛むことで唾液の分泌も促進されるため、再石灰化が促進されます。

 

 

エナメル質を強くするためにできることは?

”エナメル質”/

エナメル質は、歯の表面の2〜3ミリ程度です。身体の中で最も硬い組織ですが、酸によって溶けてしまうという性質があります。大切な歯を守るために、フッ素の塗布や食事の成分でエナメル質を強くしましょう。

 

フッ素塗布

フッ素は歯科医院で塗布するフッ素と自宅で毎日取り入れられるフッ素があります。

 

歯科医院で塗るフッ素

歯科医院で塗布するフッ素は、高濃度のフッ素(9000ppm程度)を塗布し、3ヶ月程度効果が持続するといわれています。
お口の状況を定期的に確認することにもつながりますので、継続的にフッ素を塗布しましょう。

 

フッ素入りの歯磨き粉

いま自宅で使用している歯磨き粉を、フッ素入りのものに交換するのもおすすめです。
自宅で使えるフッ素は950〜1450ppmの濃度のものが多く、毎日使用することができます。

 

フッ素ジェル

フッ素ジェルも自宅で手軽に取り入れることができる方法の一つです。
ジェルタイプなので歯磨き粉と比べてお口の中にとどまりやすい傾向があります。
就寝中はお口の中が乾燥しやすくむし歯のリスクが高まるため、寝る前などにフッ素ジェルを塗布するとよいでしょう。

 

エナメル質再生療法(エナメルリペア)

歯の表面のエナメル質に、薬剤を塗ってエナメルコーティングする再生療法です。
初期のむし歯であれば削らずに改善することができるほか、むし歯がない場合でもこの治療で歯を強化することで、むし歯予防や口臭予防などの効果が期待できます。

 

まとめ

大切な歯を守るためには、お口の中の環境を整えることが大切です。
頻繁に間食をすると、ミュータンス菌が酸を発生しやすい環境になってしまいます。
ダラダラ食べを続けると唾液の働きが間に合わず、酸性の状態が続いて虫歯になる原因となるため、間食はなるべく時間を決めるようにしましょう。
また、お口の中に汚れが付着した状態が続いていると、むし歯のリスクが高まるため、歯磨きは食後30分以内に行うのがベストです。

 

それ以外にも、歯の質を強化するための方法としては、フッ素塗布や再生療法であるエナメルリペアなどがあります。自分に合った方法で、むし歯に負けない歯を作りましょう。

 

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