口腔機能低下症とは?検査項目やケアについて解説します
この記事の監修者
中島 美砂子/歯科医師・研究者(歯学博士)
医療法人健康みらい RD歯科クリニック理事長。九州大学大学院歯学研究科を修了後、同大学院並びに米国研究機関にて歯内治療の研究を推進。その後、「細胞移植による歯髄再生治療」の臨床研究を行い、実用化。
代表著書
・Nakashima M, et al.: Pulp regeneration by transplantation of dental pulp stem cells in pulpitis: A pilot clinical study.Stem Cell Res Therapy 2017.世界初の歯髄再生治療の臨床研究
・中島美砂子、庵原耕一郎:―患者まで届いている再生医療―「歯髄・象牙質再生治療の現状」 日本再生医療学会雑誌 2019.
口腔機能低下症とは、咀嚼や飲み込みなどが難しくなる症状です。
口腔機能低下症を放置すると、全身においてさまざまな健康被害が起こるおそれがあります。
そこで本記事では、口腔機能低下症の主な症状や原因、検査やケア方法を解説します。
口腔機能低下症のおそれがある方や、治療中の方はぜひ参考にしてみてください。
口腔機能低下症とは?
口腔機能低下症とは、咀嚼や嚥下(えんげ:食べ物や飲み物を飲み込むこと)、唾液などの口腔内の機能が低下していく疾患です。
口腔機能低下症になると、主に以下のような症状があらわれます。
- 滑舌が悪くなった
- 食べこぼしするようになった
- 口の中が乾くようになった
- 固いものが食べづらくなった
- 食事の際にむせるようになった
- 食べ物が口に残るようになった
- 口の中が汚れるようになった
- 薬を飲みにくくなった
上記の症状がみられる方は、口腔機能低下症の疑いがあるため歯科医院などで検査を受けましょう。
口腔機能低下症の原因
口腔機能低下症の最も大きな原因は、加齢とされています。
年齢を重ねていくと、噛む力や舌の運動能力が低下し、お口周りの筋力や舌圧が弱くなるため、咀嚼がしにくくなったり、飲み込みが難しくなったりします。
加齢以外の要因としては、虫歯や歯周病などの疾患、歯磨きなどの口腔ケアができていないなどが挙げられます。
また、全身に起こりうるさまざまな病気や薬の副作用によっても、口腔機能が低下するおそれがあります。
このように口腔機能低下症にはさまざまな原因が考えられます。
口腔機能低下症になるとどうなる?
口腔機能が低下すると、滑舌が悪くなったり、口内が乾燥しやすくなったりするだけではなく、場合によっては、全身の健康が損なわれ、外出すらできなくなるケースもあります。
咀嚼が思うようにできなくなったり、嚥下がスムーズにできなくなったりすると、噛みごたえのあるものが食べられず、食欲が低下し、栄養バランスが偏るおそれもあるでしょう。
その結果、低栄養症となり、筋力や体力が衰え、階段の上り下りすらできなくなることもあります。
このように口腔機能が低下すると日常生活に支障が出るリスクがあるため、気になる症状がある方は早めの対策が必要です。
口腔機能低下症の検査項目とケアについて
口腔機能低下症を診断するためには、以下の項目に沿った検査が必要です。
- 口腔衛生状態不良
- 口腔乾燥
- 咬合力低下
- 舌口唇運動機能低下
- 低舌圧
- 咀嚼機能低下
- 嚥下機能低下
それぞれについて、詳しく解説します。
口腔衛生状態不良
舌苔(ぜったい:舌につく細菌のかたまり)の付着具合をみて、口内の清潔度を確認します。
舌苔は口内細菌や食べかすなどが溜まったもので、口臭や、味・熱さを感じにくくなる原因にもなるといわれています。
口腔衛生状態不良と診断された方は、以下のケアを徹底してください。
- 歯磨きを、毎日就寝前と起床後に行う
- 舌ブラシで軽く舌を磨く
- 歯磨き後に歯間ブラシやフロスを使う
- うがいをしっかり行う
- 歯科医院で定期検診を受けてクリーニングや口腔内のチェックをしてもらう
口腔乾燥
口腔水分計を活用し、舌の先から10mm後方の部分にセンサーを当て、乾燥具合を示す数値を確認します。
あるいは、乾燥したガーゼを2分間噛み、増加した唾液量を測定し、乾燥具合を確認する検査もあります。
口腔乾燥と診断された方は以下のケアを徹底しましょう。
- 水分をこまめに摂取する
- 舌回しをして唾液腺を刺激する
- 食事の際によく噛んで食べる
- お口専用の保湿剤を使用する
- 唾液腺マッサージを行う
咬合力低下
残存する歯を用いて、専用の機器を使って咬合力を計測します。
咬合力低下と診断された方は以下のケアを徹底しましょう。
- 歯科医院で噛み合わせのチェックを行い、必要に応じて治療する
- 食事の際、スルメイカや干し芋など、歯ごたえのあるものを食べる
- 顔筋(咀嚼筋)及び口輪筋トレーニングをする。
舌口唇運動機能低下
「パ」「タ」「カ」という音をそれぞれ5秒間発し、その際の舌の動きや口唇の動きを測定します。
舌口唇運動機能低下と診断された方は、以下のケアを徹底しましょう。
- 早口言葉を練習し、舌や唇を大きく動かす練習をする
- 普段から会話する習慣を身につける
- 専用器具などを使用し、頬や唇を鍛える運動を行う
低舌圧
舌圧測定器を口内に入れ、舌の力を測定します。
低舌圧と診断された方は以下のケアを徹底しましょう。
- 舌で左右の頬を内側から押す訓練をする
- 普段から舌回しをする
- 舌専用の訓練器具で舌を鍛える
咀嚼機能低下
グミゼリーを噛んで咀嚼機能を検査します。
咀嚼機能低下と診断された方は以下のケアを徹底しましょう。
- 食事の際は、1口ごとに20〜30回程度噛んで食べる
- 虫歯や歯周病などの口内疾患がある場合は治療する
- 歯科医院で咀嚼機能のトレーニングを受ける
嚥下機能低下
「飲み込みの問題が原因で体重が減少した」「飲み込みの問題が外食に行くための障害になっている」「液体を飲み込む時に余分な努力が必要だ」などのアンケートに答え、嚥下機能を調べます。
嚥下機能低下と診断された方は以下のケアを徹底しましょう。
- 舌を回したり、頬を動かしたりして口周りの筋肉を鍛える
- ストレッチなどをしてリラックスし、首や肩周辺の筋肉を柔らかくする
- 腹式呼吸をして呼吸機能を高める
口腔機能を高める方法
山口県歯科医師会は、幼稚園児に対してフーセンガムを使った口腔機能トレーニングを実施し、口腔機能が顕著に向上していることを確認したと発表しています。
幼稚園児にフーセンガムを1回2粒10分間、ふくらませるトレーニングを70日間行った結果、口周りの筋肉の発達が向上したとの結果が出ました。
医師会の小山会長は「フーセンガムを使用したトレーニングは、『噛む・舌を動かす・口をしっかり閉じる』など口腔機能の発達に必要な要素が多く含まれており、子供たちが簡単に楽しく取り組むことができる」と発表しています。
引用:日本歯科新聞「フーセンガムでの訓練で園児の口腔機能が向上/山口県歯が実証」
まとめ
口腔機能低下症とは、咀嚼や嚥下(食べ物や飲み物を飲み込むこと)、唾液などの口腔内の機能が低下する疾患のことです。
口腔機能低下症の最も大きな原因は、加齢とされており、咀嚼がしにくくなったり、飲み込みが難しくなったりします。
また、加齢以外の要因としては、虫歯や歯周病などの疾患、歯磨きなどの口腔ケアができていないなどが挙げられます。
口腔機能低下症を放置すると日常生活に支障が出るリスクが生じるおそれがあるため、以下のような症状がある方は早めに検査を受けるようにしましょう。
- 滑舌が悪くなった
- 食べこぼしするようになった
- 口の中が乾くようになった
- 固いものが食べづらくなった
- 食事の際にむせるようになった
- 食べ物が口に残るようになった
- 口の中が汚れるようになった
- 薬を飲みにくくなった